一般社団法人適塩・血圧対策推進協会
代表理事 岡山明
近年、食品スーパーなどで「減塩」食品を目にすることが多くなりましたが、「美味しい減塩食品」というフレーズを見たり聞いたりしたことはありますか?
私の知る限り、「美味しい」とうたった減塩食品は、ほとんどありません。
それは、とても残念なことだと、私たちは考えています。例えば、高血圧が気になり始めた人が減塩しようと思っても、減塩食品が美味しくなければ、
折角の決意が挫けてしまうのではないかと、危惧するからです。
減塩食品を開発するメーカーや開発者たちには、そのような視点が欠如しているのではないかと思います。
高血圧症などで、長生きのためには減塩が不可欠な人々には、少々不味くても減塩効果を強く訴えさえすれば、減塩食品は売れると考えているのではないでしょうか。
減塩食品を開発している加工食品メーカーは、少しでも減塩効果の大きい食品の開発に血眼になっているように見えます。
30%の減塩効果がある食品の開発に成功すると、次は40%、さらに50%を目指すという具合です。
開発段階で味を比較してみて、30%と40%や50%に劇的な変化がなければ、より減塩効果の大きい40%や50%の開発に走りがちです。
しかし、ここに陥穽があります。味に劇的な変化が感じられないのは、30%減塩と40%減塩を比較した場合であって、
減塩していない元々の美味しい加工食品との味の比較が忘れられていることが多いのです。
そのような経過を辿り、美味しい加工食品とは大きく味が変わった減塩食品を開発してしまう現象を、
私は「減塩食品開発の罠」と呼び、戒めとしています。
私たち適塩・血圧対策推進協会は、「美味しい減塩食」の開発を目指して活動しています。
減塩食品はあっても、美味しい減塩食品がほとんどないことに驚き、減塩食品が美味しくなければ、減塩・適塩の運動の裾野は広がらないと考えたのがきっかけでした。
私たちのコンセプトであるナト・カリ食は、食塩の一部をカリウムの混合物に置き換えることによって減塩を目指すものです。
美味しさを維持するには、やみくもにカリウムの混合物に置き換えるのではなく、置換率を20%程度にとどめることがポイントです。
つまり、数字上の減塩効果は20%程度に留めています。
ナトリウムとカリウムの混合物の味は、配合割合によって劇的に変化します。置換率が15%程度までは、
塩味もカリウムの苦みも純粋な食塩とほとんど違いはありません。
しかし調子に乗って置換率を高めると、20%を過ぎたあたりから急激にカリウム独特の苦みが強くなり、30%でははっきりと味が変化します。
40%以上になると食塩とはほど遠い味になってしまいます。つまり、置換率が小さい場合は、カリウムは食塩の塩味を強調する役割を果たし、
それ自身の苦みも感じさせませんが、置換率が高くなるとカリウム自身の苦みが強く出てくるのです。
30%を超えるカリウム置換の減塩食品では味の変化は避けられません。
減塩食品開発の現場では、この味の変化を和らげるために、有機酸やうまみ成分を加えています。
その結果、元の食塩の味とはほど遠い味になりがちです。これが「減塩食品開発の罠」です。
私たちも開発に関わった事業者の方々との間で、「減塩食品開発の罠」をたびたび経験し、議論を深め克服してきました。
減塩・適塩の運動を推進していくには、是非とも、美味しい減塩食品の開発が求められます。
そのために、「減塩食品の罠」に陥ることなく、料理に使う調味料から、惣菜、レトルト食品、
インスタント食品など、一般の家庭の食卓に並ぶ幅広い食品群で「美味しい減塩食品」を供給できるシステムつくりを、私たちは目指しているのです。