コラム
カリウムの役割

人間総合科学大学 健康栄養学科
教授 奥田 奈賀子

 人間の身体は多数の細胞の集まりで構成されています。身体の成分の60%は水分で、そのうち約3分の2は細胞の中に包み込まれている細胞内液で、残りが細胞外液とよばれる細胞の外にある液体です。血液の成分である血漿やリンパは細胞外液です。細胞内液も細胞外液も、ミネラルやたんぱく質など様々な物質を溶かし込んでいます。細胞内液と細胞外液の成分はそれぞれ一定の範囲にあることが重要で、そのバランスは生命活動を通じて保たれています。

 細胞外液中で一番多い重要なミネラルがナトリウムですが、食塩(塩化ナトリウム)を取りすぎると高血圧の原因になるため減塩運動が行われてきました。一方、細胞内液で一番多いミネラルがカリウムで、こちらも生命活動に必須のものです。しかも、ナトリウムと反対に「血圧を下げる、高血圧を予防する」作用があることが、1980年代には明らかとなっていました。が、カリウムは味も匂いもしないこともあり、減塩運動のような「カリウム摂取運動」が盛り上がることはありませんでした。

 カリウムには①ナトリウムの排泄作用②血圧降下作用③情報伝達作用④筋肉収縮作用――といった作用があります。①のナトリウム排泄には、腎臓でナトリウムを水とともに尿として排泄させるため、むくみを改善する作用があります。また、血圧上昇作用があるナトリウムを排泄させることで、②の血圧降下作用が現れます。また、細胞内のカリウムと細胞外のナトリウムは、細胞膜をはさんで互いに協働することで細胞活動が起こります。これが、③の情報伝達作用(神経細胞の信号伝達)や④の筋肉の収縮です。

 このように、カリウムは細胞内液の主要成分のひとつであると同時に、細胞活動のメジャープレーヤーでもあるのです。そのため、カリウムが欠乏する低カリウム血症や、反対に血中カリウム濃度が高くなる高カリウム血症では様々な症状が現れます。低カリウム血症では感覚障害や脱力をはじめ、麻痺や意識障害が起こり、高カリウム血症では不整脈がおこります。けれども、腎臓のカリウム排泄能力は非常に高いため、腎機能が著しく低下しない限り高カリウム血症にはなりません。

 このように、減塩とともにカリウムを積極的に摂取することが高血圧予防には大切なことです。カリウム摂取量を増やすためには、野菜や果物の摂取量を増やすことが推奨されています。確かに、野菜や果物はカリウムを豊富に含みますが、「手間がかかる」などの理由から、特に男性で摂取量を増やすのは難しいようです。カリウムは動物細胞にも含まれているので、肉や魚、特に脂肪分の少ないものには多く含まれます。脂身の多い肉や魚を控えあっさりしたものに変えれば、カリウム摂取量は増えて肥満の予防にもなります。牛乳や豆腐にも豊富に含まれます。

 丼ものや麺類など主食にかたよった食事では、カリウム摂取量は少なくなります。毎日の食事を食材のバラエティ豊かなものとして、カリウム摂取量を増やしましょう。

ナトリウムとカリウムはお互いに協働して生命活動を担っている。
会員募集について

協会の活動内容にご興味または賛同していただけるかたは、入会についての詳細をご確認ください。

PAGE TOP