コラム
それほんと? ――食品加工の“常識”

 はじめに
 「真空包装すると腐らない」「冷凍すると長持ちする」「煮込むほど肉は柔らかくなる」――。こんな“常識”を耳にしたことはありませんか。実はこれ、どれも正確ではないそうです。 食品の調理や加工については、実は科学的根拠のない思い込みや勘違いによる“常識”がたくさんあります。コラム「それほんと? 食品加工の“常識”」では、食品加工のプロフェッショナルが、食品の調理や加工にまつわる“常識”の間違いをわかりやすく解説します。ご執筆いただくのは、本協会理事で岩手大学の三浦靖先生です。


国立大学法人岩手大学 農学部
応用生物化学科食品工学研究室
教授 三浦 靖

第1回 うどんは冷凍するとコシが強くなる?

 うどんは冷凍すると「コシ」が強くなると言われています。でも、そんなことはあり得ません。  おそらくこれは、食品スーパーマーケットなどで販売されているゆで麺と冷凍麺の食感の違いから発生した誤解によって生みだされた“常識”であると思われます。

 うどんは、まず小麦粉に水を加えてよくこねて麺生地を作り、それを伸してから細く切って製造します。小麦粉に水を加えてこねる過程で小麦タンパク質から発生するグルテンが、伸す過程で一方向に並び縞状構造が形成されます。この独特な構造がうどんの「コシ」のある食感の正体です。  しかし、これを凍結すると水分が凍って生地が氷粒の周囲に押しやられるので、一方向に並んでいたグルテンが変形したり切断されたりしてしまいます。そして、解凍すると、氷粒が解けて生地に空洞ができるため、縞状構造が壊されて麺生地の至る所に小さな空洞のある多孔質の構造に変化し、「コシ」が大きく低下してしまいます。

 一方、冷凍うどんでは、冷凍による「コシ」の低下を見越して、麺生地の製造段階でグルテンを添加して麺生地を強固にしています。この段階でのうどんは、盛岡冷麺のようなゴム様の食感ですが、凍結・解凍後には「コシ」が適切になるように設計されています。  つまり、冷凍うどんに「コシ」があるからといって、ゆで麺を冷凍しても解凍後にコシの強いうどんにはなりません。それどころか、「コシ」のない柔らかいうどんになってしまうのです。伊勢うどんのような柔らかさを望む場合には、ゆで麺を冷凍してから調理するとよいかもしれません。

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