コラム
日本の第一次減塩時代~戦後から1990年頃まで~

人間総合科学大学 健康栄養学科
教授 奥田 奈賀子

 皆さんは、ご自身が1日何グラムくらいの食塩を摂取しているかご存知ですか? 食塩は調味料や様々な加工食品に混ざっているため、摂取量を正確に知るのはとても難しい栄養素の一つです。一方、摂取した食塩は殆ど全てが尿中に排泄されるという性質があります。そのため、1日分の食塩摂取量を知るもっとも正確な方法は、1日分の尿をすべて容器に貯めて、尿中の食塩の量を測定する方法であり、「24時間蓄尿」と呼ばれています。かなり手間のかかる方法ですが、現在でもこの方法が標準的な方法として世界的に認められています。

 日本で24時間蓄尿により測定された最も古い調査は、1950年代のものです。このときの1日あたりの食塩摂取量は、東北地方で26g、近畿地方で17g、広島県で14gと推定され論文に報告されています。その頃の東北地方での食塩摂取量は、現在の日本人の食塩摂取量の2倍にも相当する量です。

 当時はまだ、食塩摂取量と血圧値との関連について、何グラム食べると何mmHg上がるといった詳細な解析にもとづく研究結果はありませんでしたが、「塩辛いものをたくさん食べると、脈が強くなる、血圧が高くなる」ということは知られていました。実際に日本国内でも、食塩摂取量の多い地方に高血圧の人が多く、脳卒中死亡率が高い状況がありました。

 そのため、地域の取り組みとしての「減塩運動」が盛んに行われました。この時活躍されたのが、全国の保健所を中心に組織された「食生活改善推進員さん(食改さん)」たちです。食改さんたちは、「みそ汁は薄味に」「漬け物を少なめの食塩で作る」といった講習を地域で繰り返し行いました。これら、地域での活動と同時に、食品の冷蔵・流通技術の発達に伴って食品保存料としての食塩の重要性が低下し、市販加工食品の塩分濃度も徐々に低下していきました。

 その結果、1980年代後半に日本を含む32か国、52の地域で24時間蓄尿により人々の食塩摂取量を推定した大規模研究(INTERSALT研究)では、日本人の食塩摂取量は1日12g程度、欧米での摂取量は8から10g程度と推定されました。かつて1950年代に2倍にも及んだ国内での地域差は小さくなり、食塩摂取量の多い地域と少ない地域での差は、1日2g程度と推定されています。そして、この時期に日本では、高血圧が最大の危険因子である脳卒中による死亡率(年齢調整)も大きく低下しました。

 日本の減塩運動は一定の成果を上げましたが、それでも欧米に比べると食塩摂取量は多い水準に留まっていました。そして1990年代以降、1日12gからのさらなる減塩、減塩レベルアップを目指す時代を迎えます。

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