コラム
それほんと? ――食品加工の“常識”

国立大学法人岩手大学 農学部
応用生物化学科食品工学研究室
教授 三浦 靖

第2回  冷蔵庫は万能か?

 食べ物はなんでも冷蔵庫に入れておけば、美味しさが長持ちすると思っていませんか? 一般的にはその通りですが、中には冷蔵庫には適さない食べ物があります。炊いたご飯やパンがその典型です。澱粉を多く含む食品は、冷やすと硬くなったり、香ばしさが失われたりするからです。

 澱粉はアミロースと呼ばれる直鎖状澱粉鎖とアミロペクチンと呼ばれる分岐状高澱粉鎖の混合体です。水を加えて加熱すると澱粉鎖の結晶が崩壊し、澱粉鎖が水分子を引き付けて、非結晶状態に変化します。この変化は澱粉の糊化と呼ばれます。例えば、硬い生の米粒では米澱粉が結晶状態にありますが、お米に水を加えて炊くと、澱粉が糊化して柔らかいご飯になるのです。

 熱々で柔らかなご飯が冷めると硬くなるのは、炊飯で一旦糊化した澱粉が部分的に再結晶するためです。その現象を澱粉の老化と呼びます。パンが硬くなるのも澱粉の老化が主な原因です。澱粉の老化は5℃ぐらいの温度で進行しやすいことが知られています。つまり、冷蔵庫に保存すると、ご飯やパンはますます硬くなってしまうのです。しかも、一旦老化したご飯は再加熱しても透明度や柔らかさ、粘度は回復しません。ですから、ご飯の食べ残しは短時間であれば10°C程度の冷所で保存するか、長時間であれば冷凍庫での保存をお勧めします。

 硬くなったパンは再加熱すると元に戻ると思われていますが、実はそんなことはありません。香ばしい風味や光沢がなくなってしまいます。冷蔵庫に保存すると澱粉の老化が進みますから、ますます硬くなってしまいます。ですから、パンは硬くなる前に食べてしまうか、食べきれないときは冷凍庫での保存がお勧めです。

 バターやマーガリン、チョコレートなど油脂を多く含む食品も冷蔵庫の保存には適しません。バターやマーガリンは冷蔵庫の出し入れを繰り返していると、バターナイフでパンに塗るときに延びにくくなります。これは、液体の油が固体脂に状態変化する油脂の結晶化などが原因です。従って、バターやマーガリンも、冷蔵庫ではなく10℃程度の冷所で保存するのが最適です。

 また、一旦、柔らかくなってしまったチョコレートを冷蔵庫で冷やすと、表面がくすんだ色になって白い斑点ができることがあります。これはファットブルームと呼ばれる現象で、白い斑点の正体は、脂質の一種であるトリアシルグリセロールと呼ばれる油脂です。ファットブルーム現象を起こしたチョコレートは見た目だけではなく口融けも悪くなってしまいますから、柔らかくなったチョコレートは冷蔵庫ではなく10℃程度の冷所に置いておくとよいでしょう。

 また、テンパリングという方法で、チョコレートを美味しく作り直すこともできます。まず、湯煎などでチョコレートを50℃程度まで加熱して融かし、次に25~26℃まで速やかに冷却し、再度30~31℃まで加熱してから室温まで冷まして出来上がりです。是非、試してみてください。

会員募集について

協会の活動内容にご興味または賛同していただけるかたは、入会についての詳細をご確認ください。

PAGE TOP