コラム
最近の日本人の食塩摂取量は? 減ってる? 変わらない?

人間総合科学大学 健康栄養学科
教授 奥田 奈賀子

 テレビ番組などで一番よく紹介される「日本人の食塩摂取量」は、厚生労働省が毎年実施している国民健康栄養調査の集計結果によるものです。この報告によると、最新の日本人の平均食塩摂取量は1日約10㌘で、近年も日本人の平均食塩摂取量は年々少しずつですが減少傾向にあることになっています。

 けれど、この報告には疑問もあります。厚生省時代の1946年以来毎年続けられてきた伝統ある調査ですが、食塩摂取量を推定する最も信頼のおける方法である尿中ナトリウム排泄量の測定は行われたことがないからです。

 一方、1990年代以降に「加工食品を20%減塩する」規制を実施し、およそ15年間で国民の平均食塩摂取量を約1.5㌘減少することに成功し、1日約8㌘まで低下させたイギリスは、尿を用いた食塩摂取量の推定に先駆的に取り組んでいます。「24時間畜尿調査」という手法で、調査対象の方には蓄尿用のビンを丸1日持っていただき、自宅でも外出先でもすべての尿をビンに採取していただきます。この尿を提出いただき1日分の尿に含まれる食塩量を測定します。食物中の食塩はほぼすべて尿中に排泄されるので、これが食塩摂取量を推定する最も信頼できる方法です。

 アメリカでも、大規模な24時間蓄尿による食塩摂取量調査が日本よりも頻繁に行われています。これらの結果をまとめた論文では、アメリカでは1950年代以降食塩摂取量は減らなかった、と結論づけられました。

 日本でも尿を用いた食塩摂取量推定が散発的に行われ研究論文として公表されていますが、これらの結果を時系列に検証すると、日本人の食塩摂取量は継続して減少傾向にあるとは言い難いのが現状です。有効な高血圧対策には、国民の食塩摂取量の正確な把握が欠かせません。そのためには、尿を用いた食塩摂取量の推定を継続的に行う仕組みが必要です。

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