コラム
それほんと? ――食品加工の“常識”

国立大学法人岩手大学 農学部
応用生物化学科食品工学研究室
教授 三浦 靖

第3回 真空包装の落とし穴

 真空包装をすると食品の腐敗が防げることは、食品保存法の“常識”として、広く知られています。近年では、手軽な家庭用真空パック器も市販され、人気があるようです。

 実際、真空包装により腐敗が防げることは少なくありません。が、万能ではないことにご注意ください。

 腐敗とは、細菌などの微生物がタンパク質や油脂、糖質などを分解したり、ヒトの体に有害な物質を作り出す現象です。食品の表面や内部には、少なからず微生物が存在しています。

 腐敗の原因となる微生物は、好気性微生物と嫌気性微生物に分類できます。好気性微生物は増殖するために酸素を必要としますから、真空包装によって酸素を遮断すると増殖することはできません。ですから、好気性細菌の働きによる腐敗には、真空包装が威力を発揮します。食品の腐敗の原因となる好気性微生物にはカビ、枯草菌、セレウス菌などがあります。

 一方、嫌気性微生物は増殖に酸素を必要としません。そのため、酸素を遮断する真空包装をしても食品は腐敗の危険に曝されます。食中毒の原因となるブドウ球菌や大腸菌などがその代表例です。つまり、真空包装は万能ではないのです。

 数カ月間の賞味期限を確保するために、かまぼこや魚肉などの水産練り製品や、ハム、ソーセージ、ベーコンなどの食肉製品の加工では、真空包装だけに頼らずに、包装前に殺菌やpH調整による微生物制御を併用するのが一般的です。

 殺菌とは食中毒や品質を劣化させる原因となる有害微生物を短時間で殺滅することを言います。原理的には加熱や煮沸、電磁波照射などの物理的殺菌法と、薬剤を使う化学的殺菌法に分類され、加熱の有無からは加熱殺菌法と非加熱殺菌法に分類されています。

 飲料の殺菌には135~150℃の温度で2~6秒間加熱する超高温短時間殺菌法が用いられています。食品や作業者の身体、使用器具・設備は、エタノール殺菌剤、次亜塩素酸殺菌剤、過酸化水素殺菌剤など使った化学的殺菌法で殺菌するのが一般的です。

 pH調整は食品のpH値を調整することで腐敗を防止する方法です。微生物の増殖可能pH域は広く、一般にpH 4~10の範囲にありますが、食品の腐敗の原因となる有害微生物の増殖可能pH域はやや狭くpH 5~9にあります。有害微生物にとって居心地がよく活動が活発になる至適pH域はさらに狭くなりpH 7.0~7.6、カビや酵母の至適pH域はpH 6.0~6.5にあります。そのため、食品のpHを至適pH域から酸性または塩基性に調整することで、微生物の増殖を抑制することができます。加工食品では酢酸塩やクエン酸塩、乳酸塩でpH調整が行われています。

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