コラム
食塩摂取量の調査法

人間総合科学大学 健康栄養学科
教授 奥田 奈賀子

 皆さんは、ご自分の食塩摂取量が1日何グラムかご存知ですか? 日本では、国民健康・栄養調査結果に基づき、平均食塩摂取量が毎年報告されていますが、一体どのように計算されているのでしょうか?

 国民健康・栄養調査の食事調査法は、「世帯按分半秤量記録法」と呼ばれています。調査対象となった世帯は、ある1日に家族が食べたもの、飲んだものを全て調査票に記録するよう依頼されます。例えば、記録者が一家の主婦である場合、自宅で調理した料理のほかに、夫が居酒屋で食べたものや、息子が学食やコンビニで食べたものも記録します。ご飯や肉など形のある食材の他、醤油や塩、油などの調味料も記録することを求められます。実際には、調味料の使用量を詳細に記録できる方は少ないので、多くの場合は調査員である管理栄養士が標準的な味付けを参考に使用量を推定し、食塩摂取量が算出されます。

 いかがでしょう? この方法で正確な食塩摂取量が推定できるでしょうか。夫は外で飲んだビールの量を過少申告するかも知れませんね。「我が家の味付け」は、標準よりも濃かったり薄かったりするのが普通だと思われませんか?「血圧が高いので塩辛いものを食べたのは報告しないでおこう」という“忖度”が働いてしまっているかも…。なかなか奥が深いのが食塩摂取量の推定なのです。

 一方、食塩摂取量を正確に測定できると言われているのが「24時間蓄尿」という方法です。前回のコラム「最近の日本人の食塩摂取量は? 減ってる? 変わらない?」でも触れましたが、この方法では、1日に排泄した尿をすべて容器に貯めて提出していただき、尿中に含まれる食塩量を測定します。飲食により摂取した食塩はほぼ全て尿中に排泄されるため客観的な評価が可能なのです。反面、尿を貯めた容器を一日中持って歩かなければならないなど被験者の負担が大きいため、大勢の方にご協力いただくのが難しかったり、食塩摂取量は食事により大きく変化するため、1日分を測定しただけでは適切な評価と言えるかどうか疑問が残ったりという難点もあります。

 そのため近年では、新しい方法として「スポット尿」から一1日分の食塩摂取量を推定する方法が考案されています。スポット尿は検尿のときに提出する程度の少量の尿のことです。一度だけの測定では24時間蓄尿より正確さには欠けますが、数日間繰り返えせば24時間蓄尿に匹敵する精度が得られると言われています。

 スポット尿を使えば、食塩だけではなく、1日のカリウム摂取量や尿中のナト・カリ比を測定することもできます。健診などに導入して、受診者の食塩摂取量、カリウム摂取量、ナト・カリ比を測定し通知するような仕組みができれば、高血圧対策に役立つと期待できます。

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