コラム
食物中のナトリウムとカリウムの測定①

盛岡大学 栄養科学部栄養科学科
教授 板井 一好

 ナトリウム(Na)とカリウム(K)は、自然界に92種類存在する元素の中で、地球の表面部分にそれぞれ6番目と7番目に多く存在する元素です。塩化ナトリウム(塩)や塩化カリウムなどの化合物は水に溶けやすい性質を持っています。植物にとってカリウムは成長に必須な元素で、植物は根からカリウムを吸収して成長していきます。人間にとってもナトリウムとカリウムは生存に必須の元素で、カリウムは主に野菜から、ナトリウムは塩分から摂取しています。

 ナトリウムとカリウムの摂取量は、健康維持と大きな関係があります。ナトリウムの摂取量が多いと血圧が高くなる傾向があり、適量のカリウムを摂取すると、余分なナトリウムが尿へ排泄されるので、血圧の適正レベルの維持に重要であると考えられます。

 ところが、一般に日本人の食習慣はナトリウムの摂取量が多く、カリウムの摂取量が少ないとされています。これが頭の痛い問題で、日本人には高血圧症の人が多いのです。予防のためには、日常的に食べている食事に含まれるナトリウムとカリウムの量を知ることが重要です。

 では、ナトリウムとカリウムの量はどのようにして計るのでしょうか。2回に分けて、ナトリウムとカリウムの測定方法を説明します。

 ナトリウムとカリウムはとてもよく似た化学的性質を持っているので、どちらの元素も同じ方法で測定できます。消費者庁が定める公定法には食品中のナトリウムとカリウムの測定する方法が2つ示されており、測定にはどちらかを標準として用いています。

 一つは、灰化法と呼ばれる測定法で、食品を500℃で燃やして灰にし、灰の中に残ったナトリウムとカリウムの量を測定します。もう一方は、塩酸抽出法と呼ばれる測定法で、こちらはナトリウムやカリウムの化合物が塩酸に溶けやすい性質に直目した方法です。食品中のナトリウムやカリウムは化合物として存在しているため、この方法が有効なのです。

 適塩・血圧対策推進協会では、塩酸抽出法を用いています。塩鮭やパンなど固形の試料を測定するときには、まず、水を加えてミキサーで破砕・均質化し、その少量を塩酸溶液に加えて密封し、試料中のナトリウムやカリウムが完全に溶けるまで、ときどきかき混ぜながら24時間室温で放置します。次に、溶液中のナトリウム、カリウムの濃度を測定しやすいようにさらに蒸留水で希釈し、粉砕した固形試料を濾過して取り除くと、試料溶液が出来上がります。あとは、試料溶液を検出器に入れナトリウムやカリウムの濃度を測り、計算すると元の試料のナトリウム、カリウムの含有量が分かります。

 鮭、パンなどの元の試料、粉砕や希釈のために使う水、試料を溶かすための塩酸溶液、希釈後に測定に使うための試料などの量は、すべて、0.01グラムまで測定できる精密な電子天秤を用いて計量します。次回は、検出器の仕組みをご紹介します。

 

 

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