コラム
仲の悪い兄弟?――カリウムとナトリウム

一般社団法人適塩・血圧対策推進協会
代表理事 岡山明

 似て非なるカリウムとナトリウム

 ナトリウムとカリウムは化学的な金属分類上同じアルカリ金属に含まれる元素で、通常、ほとんどすべてがイオンの形で存在しています。特に水中では完全なイオンとして存在し、周りに多くの水を引き付けることが特徴です。
 同じアルカリ金属ですから、カリウムとナトリウムの性質はよく似ています。ところが、体内での役割は大きく異なります。まるで、仲の悪い兄弟のようです。生命はこの似て非なる二つのイオンを利用して生命活動を営んでいます。
 ナトリウムは細胞の外(細胞外液)や血液中に多く、カリウムは細胞の中に多く含まれます。細胞内外のナトリウムとカリウムの濃度差は、ナトリウムポンプによって維持されています。ナトリウムポンプというのは、ナトリウムイオンを細胞内から外へ輸送する仕組みで、ナトリウムイオンをくみだし、代わりにカリウムイオンを取り込みます。その働きによって、細胞内のナトリウムイオン濃度は細胞外に比べて常に低く維持されているのです。細胞はこの濃度差を利用して活動を維持したり、神経では情報を受け渡ししたりしています。
 体重60kgの人でカリウムは約100g、ナトリウムは約35g体内に含まれていて、カリウムの大半は細胞中に含まれ、血液などの細胞外液にあるのは2から3%だけです。ナトリウムはその反対で、細胞内には数%しか含まれません。性格は似ているのに、家族の中での役割が違ったり、好みが違ったりと、やはりどこかの家の仲の悪い兄弟のようです。

 食品加工・保存上は、とても似ている

 食品加工の際に金属が有効に働くがどうかを決定する要因はイオン性です。加工食品の原材料となる肉類や小麦粉などに、カリウムやナトリウムなどの強力なイオン化物質を加えると、タンパク質や糖質などの構造に変化が起こります。肉や魚のすり身加工、うどんやパンの製造過程では、こうした作用を利用して加工が行われています。
 水を引き付ける力はカリウムのほうがやや強いのですが、カリウムはナトリウムより重いため重量当たりのカリウムイオンの数は少なく、ナトリウムとカリウムでは重量当たりの作用には大きな差はないようです。
 そのため、ナト・カリ食が提唱する範囲のカリウム置換度では、食品加工の際にナト・カリ塩を使っても、普通の食塩を使用した場合と大きな違いは起こりません。それが、普通の塩の代りにナト・カリ塩を使うだけで簡単に減塩食品を加工できるナト・カリ食の大きな特徴になっています。
 パンの製造など発酵を伴う食品加工の場合には、ナトリウムとカリウムでは大きな違いが生じる可能性があります。と言っても、悪い可能性ではありません。よい影響です。カリウムはいわゆる栄養塩類(肥料の三要素)の一つで、カリウム濃度が上がると発酵が促進されます。これまでの経験では、ヘルシオライトなどのナト・カリ塩を用いた場合、通常より発酵が進みやすく、パンのきめが細かくなるなどの報告を得ています。

 カリウムの塩味増強効果

 ところで、減塩食品加工上の最大の課題は塩味です。塩分を減らすだけなら簡単ですが、――保存の問題などもあり、保存食品などではそれほど簡単ではない場合もありますが――それでは、味が薄くなってしまい美味しくありません。これまで減塩食品があまり普及しなかった原因の一つはそこにあると思われます。ナト・カリ塩は、その課題を克服する上でも力を発揮しています。
 純粋なカリウムには塩味はほとんどありませんが、ナトリウムと混ぜるとナトリウムの塩味を強化する役割を果たします。そのため、塩分(ナトリウム)を減らしても塩味が大きく薄くなるのを避けることができるのです。調理の際に牛乳を加えると減塩効果があるとして乳和食などが提唱されていますが、牛乳にはカリウムが多く含まれていますから、カリウムの作用で塩を減らしても塩味が保たれているからなのかもしれません。

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