コラム
ラーメンを食べると水が欲しくなるのはなぜ?

人間総合科学大学 健康栄養学科
教授 奥田 奈賀子

 昼食にラーメン屋さんに行きました。テーブルには水の入ったコップがあります。ほどなくラーメンが運ばれてきました。スープの香りがたまらず、まずはスープを一口、そして麺をズルズルッと頬張ります。多くの国々では、この「ズルズルッ」はマナー違反で、外人さんには耐えられないらしく、「ヌードルハラスメント」と呼ばれるそうですが、これがなければ、麺とスープの絶妙なバランスが崩れてしまうのではないでしょうか。「ズルズルッ」はラーメンの美味しさの一部だと思います。

 さて、今日のお話は、「ラーメンを食べた後、水が欲しくなるのはなぜ?」です。思い浮かべてください。麺をズルズルッと啜ってラーメンを食べ終わりました。そのあと、皆さんは水を飲まずにお店をでますか? それとも水をゴクゴク飲みますか? そのような調査結果はなさそうですが、ラーメンを食べた後、水を飲まずにお店を後にする人は、100人に3人もいないのではないでしょうか。

 ラーメンを食べた後水が欲しくなるのは、口直しのためではありません。ちゃんと生理的な理由があります。

 イラストをご覧ください。「塩分(ナトリウム)を摂取した後、からだで起こるできごと」を説明しました。

塩辛いものを食べた後なぜ水を

 ① 塩分をとる前の心臓と血管の様子です。
   食事をする前でも、血液には一定濃度のナトリウムが含まれていて体中に運ばれています。

 ② 食後の様子です。食事で摂取したナトリウムは、一旦はすべて血液中に吸収されます。
   そのため血液のナトリウム濃度が上昇します。ナトリウムには身体が機能するために重要な役割が
   ありますが、その役割を適切に果たすためには、血液中のナトリウム濃度は非常に狭い範囲でコン
   トロールされていなければなりません。少な過ぎても多過ぎても、身体が正常に機能しなくなるの
   です。ラーメンを食べた後は、ナトリウム濃度が上昇してしまっています!
   大変です! 緊急事態です! 濃度を下げなくては!

 ③ 摂取してしまったナトリウムを短時間に体外に出す仕組みはありません。
   そこで、身体は「水をたくさん飲んで濃度を薄める」という作戦に出ます。
   つじつまを合わせるわけです。これが、ラーメンを食べた後に水が欲しくなる理由です。
   水を飲むと血液中のナトリウム濃度は下がりますが、血液量は増えます。医学的には「循環血液量
   が増える」と言い、これは血圧上昇の原因となります。まだ、危機は回避できていません。

 ④ とりあえず水で薄めて危機を回避した身体は、その後時間をかけて尿中に余分なナトリウムを
   濾し出します。この時、水を一緒に尿として排泄するので、体内のナトリウムと水が元の状況(①)
   に戻ります。これで危機が回避されました。

 ラーメンを食べたとき、焼き肉を食べたとき、お味噌汁、漬け物を食べたとき、すき焼きを食べたとき、このような出来事が身体の中では繰り返されています。食事の後に水を飲んで、しばらくしてから尿を排出することで、一時的には危機を回避できます。が、必要以上の塩分を取り続けることは、血圧上昇の一因となります。

 いかがでしょうか。「食事のあと喉が渇く」は「塩辛いものを食べた」ことに対する身体のサインなのです。試しに、冷奴にしょう油をかけずに食べてみてください。朝食のみそ汁、漬け物をやめてみてください。食後に喉が渇かないことに気づくはずです。

 「食後に喉が渇かない」は、ナトリウムを減らせた、心臓と血圧に優しい食事をしたことのサインなのです。

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