コラム
リチウムの健康影響(2) ―日常生活における摂取レベルと健康影響―

適塩・血圧対策推進協会
学術顧問 板井 一好


 前回はリチウム(Li)がナトリウムやカリウムの仲間なのに身の回りには極めて少なく、多量に服用すると気分が落ち着く効果があることを述べた。今回は環境のリチウムの健康影響について述べる。

 昔からリチウムの気分障害改善効果が知られ治療目的で使用されていた。さらに、リチウム服用者に自殺者が少ないことが発表され、自殺予防効果にも注目が集まった。ただし、日常生活では考えられないほど多量に服用する場合に限る、とされていた。
 ところが最近、新たな研究結果の報告があった。日常の飲料水に含まれる極めて微量のリチウムでも自殺予防に効果がある、というものである。各地の死亡統計から集計した自殺死亡者数と、その土地の飲料水中のリチウム濃度との関係を検討しており、これらの研究報告によれば、ある一定以上のリチウムを含む飲料水の飲用には、自殺予防効果があることを示唆している。つまりこれは、一般健常人の日常的な摂取量でも効果がある、と報告しているのである。

 具体的には飲料水中の濃度が31µg/L※注1以下では、自殺者と飲料水中リチウム濃度に関連は認められなかった(デンマーク)ものの、最大濃度が121µg/L(ギリシャ)や219µg/L(米国、テキサス州)では、飲料水中濃度が高いほど自殺死亡率が低かった。わが国も、飲料水中濃度が12.9µg/L(青森)では関連が認められなかったが、59µg/L(大分)では飲料水中の濃度が高いほど自殺死亡率が低かったことが報告されている。このように一定の濃度レベル以下では関連がみられないが、一定濃度レベル以上では濃度が高いほど自殺死亡率の低下が認められる。また、研究の数は少ないが、飲料水中のリチウム濃度が高いほど、認知症発症が低下するという報告もある。
 一方、リチウムは飲料水だけでなく食物からも摂取されるが、食物由来のリチウム摂取量と健康影響に関する研究報告はない。食物と違って飲料水は全ての住民が飲むだけでなく、調理や嗜好品など多岐にわたって使用されるので、食物からの摂取量に比べて飲料水からの摂取量ははるかに大きくなる。このことが飲料水中の濃度と健康との関連を追及する研究が可能となる理由でもある。したがって、調味料も使用量が多いので、含まれるリチウムの量が多いと健康に良い影響があるかもしれない。

 今回、我々もこの点に着目し、海水から濃縮した粗製塩化カリウムに高濃度のリチウムが含まれているかを確認中である。粗製塩化カリウムを用いたナト・カリ塩には高血圧予防以外にも健康によい影響を与える可能性が考えられるため、結果がわかり次第改めて報告をしたい。


※注1:µg/L(マイクログラム/リットル)…100万分の1g

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