コラム
いわて健民への道のり②

株式会社浅沼醤油店
代表取締役 浅沼 宏一


高血圧予防に良い、美味しい醤油を目指して

 さて前回は、醤油が「美味しさ」と「保存性」を実現する先人の発明品である、というお話をしました。でも、現代人にとって塩分の摂りすぎは良くないですよね。美味しさを楽しみつつ塩を減らして、高血圧を予防したいものです。そこで開発した「いわて健民醤油」についてお話します。
 当然、醤油屋さんもみんな世の中の減塩志向を意識はしております。でも業界内で「減塩醤油は売れない」というジンクスがあったのです。過去にも各社「減塩醤油」もしくは「うすじお醤油」を販売してきましたが、あまり売れないというのが通説でした。消費者の皆さんにとって「減塩食=病院食」のような物足りないというイメージが強かったのかもしれませんね。
 ところでその減塩醤油はどのようにしてつくられるのでしょうか。

① 割り戻し法
 お醤油を塩分はそのまま、その他の材料を濃いめに調合して作ります。それを後から水で割り戻すと塩分は低め、その他の成分は普通の醤油に近い濃さに仕上がります。欠点は2倍の材料を使っても2倍濃い醤油ができるわけではないので効率が悪い分、材料費が高くついてしまうことです。

② ろ過法
 食塩分を取り除くことができる細かな膜を使ってろ過する方法です。普通のお醤油からも作ることができるのですが、ろ過の時にその他のうまみ成分なども一緒に除いてしまうことが欠点です。


 2010年の全国の死因統計で岩手県は脳卒中の死亡率が全国ワースト1でした。これに危機を感じた岩手県矢巾町が岩手県醤油組合に相談し、減塩対策醤油の開発がスタートしました。
 組合ではまず、25%の割り戻し法により食塩分を25%カットした商品を作りました。当然そのままでは香りや塩味に物足りないものとなります。そこで、全国でも初めての取り組みとなる、組合の複数の蔵の醤油を組み合わせてブレンドする方法により、割り戻し法で香りに奥行きを持たせることに成功しました。
 また、味の面で注目したのが当協会でも注目の「カリウム」です。野菜や果物、海藻に多く含まれる成分で、塩味を強く感じさせてくれるばかりかナトリウム(塩分)の排出を促してくれます。
 このことにより、学生や矢巾町での集会の評価を経て、実際に矢巾町の保養施設での料理に使用していただき、利用者にも好評です。味も香りも通常の醤油と比べて全く区別がつかないというレベルまで完成させることができました。


完成した商品の名前は「いわて健民」

 カリウムの塩分排出効果によるダブルの高血圧予防効果を目的として設計した減塩対策醤油です。行政、大学研究者、醤油の組合みんなが、濃い味付けを好む習慣がある県民の課題を解決しようと一致団結して作ったしょう油です。「いわて健民」の後、三陸産真昆布や矢巾町特産のしいたけのだしを加えた「いわて健民のだしつゆ」、「いわて健民のぽん酢」も完成しました。
 笑顔で健康になって欲しいという願いを込めました。次の世代に「おいしい食文化」と「健康」をつなぐためにこれからも頑張るぞー。オー!

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