コラム
ナトリウムの一部をカリウムに置き換えた代替塩の効果と安全性

滋賀医科大学名誉教授
 上島 弘嗣


 一般社団法人適塩・血圧対策推進協会は、食塩に含まれる塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムに置き換え、薄味を自覚することなく減塩できる商品の普及を目指している。一般的に、これらの塩分は代替塩と呼ばれ、食塩中の約25%の塩化ナトリウムが塩化カリウムに置き換えられている。この程度の置き換えだと、通常は味覚的な変化を感じることなく25%の減塩が可能であるが。しかし一方で、薄味への嗜好変化には貢献できない。そのためにはさらなる減塩が必要である。加えて、ナトリウムがカリウムに置き換えられているため、腎障害のある人における高カリウム血症発症の危険性も否定できないという課題もあった。

 このような状況下において、代替塩の効用と危険性を医学的に評価しようとした研究が、国際共同研究として中国で実施され、アメリカの医学雑誌に報告された。

 この研究は、中国の600の村を代替塩を使う群と通常の塩を使う群の2群に分け、5年間追跡する臨床試験である。脳卒中の既往のある人や高血圧のある人で平均年齢が65.4歳の男女約2万人を対象とし、代替塩は先述した通常のナトリウムの25%をカリウムで置き換えたものを使用している。代替塩を使用しているため、仮に薄味にしなくても25%程度は成分構成からするとナトリウムが少なくなるが、ナトリウムをカリウムに置き換えているので、血中のカリウムが高くなって健康障害が出ないかも検討課題であった。

 結果として、代替塩群が通常塩使用群よりも収縮期血圧は3.3mmHg程度より低くなり、24時間蓄尿における食塩相当量が約0.9gより少なく、カリウムは20.6mmol(527mg)より増えた。加えて、代替塩群は通常塩使用群よりも脳卒中発症が14%程度減少した。代替塩による健康障害の増加は見られなかったという。以上よりこの論文は、代替塩の安全性と効用を示す重要な論文の1つとなったと言えるだろう。

 代替塩を使うことは薄味による減塩を目指すための第一選択品ではないが、薄味を目指しつつ、さらに代替塩にすることは減塩の程度をより一層大きくすることには役立つと思われる。また、加工食品に含まれる塩化ナトリウムの量を、ほぼ味を変えることなく減らすことも可能である。

 最後に、腎機能に障害のある人はカリウムの摂取を制限しなければならない場合があり、そのような方の代替塩使用は、主治医の指導下で行われるのがよい。



 参考文献:Neal B, et al. N Engl J Med 2021;385:1067-77.

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