コラム
果物でナトカリ比を下げよう
~小学6年生を対象にした果物摂取頻度の増加をめざした食育~

京都産業大学保健管理センター 東あかね
京丹波町健康推進課 永海貴子     


【背景と目的】
 高血圧の予防には食塩摂取量に加えて、食事中のナトリウムとカリウムの比が低いほどよいことが明らかとなっています。しかし、食塩とカリウムをどれくらい摂取しているかは、一般にはわかりません。
 京都府中部の農山村の京丹波町では、1997年より約5年毎に住民の基本健康診査において、尿中ナトリウム(Na)とカリウム(K)を測定して、住民に個人返却し、循環器疾患予防の健康教育に役立ててきました。この取り組みは令和2年度厚生労働省健康寿命をのばそうAWARD自治体部門優良賞を受賞しています。町の人口の高齢化に伴い、慢性腎臓病による人工透析患者が増加し医療費が高騰したことから、長期的視野にたって、健康教育の対象者を小学生とすることにしました。
 2015年度、町内の小学校全5校の4~6年生318人を対象に、学校健診の早朝第1尿により推定食塩排泄量と尿中ナトリウム/カリウム(mEq)比(以下、尿中Na/K比)を算出したところ、推定食塩排泄量は中央値5.7 g/日と成人の約60%でしたが、尿中Na/K比は中央値4.5と成人とほぼ同じ値でした。尿中Na/K比と食習慣との関連を多変量解析した結果、果物摂取だけが尿中Na/K比の低値と関連していました1)
 そこで、2年後、小学6年生を対象に果物摂取の増加をめざし、学校ごとに割付けた比較対照試験を実施し,果物の摂取に関する自記式質問調査(以下、果物調査)と尿中Na/K比で評価しました。

【方法】
 2017年7月に小学校全5校の6年生104人を、食育を行う介入群2校(48人)と対照群3校(56人)に割付けました。介入群には45分の食育を各校1回、果物調査は、食育前後、尿中Na/K比測定は食育2ヶ月後に実施しました。さらに、児童に対する食育には限界があることから、介入校では学校給食で果物を増やす取組を行い、それまで2ヶ月に1度程度であったのを月2回に増加させました。

【結果】
 食育後の介入群と対照群の比較では、果物摂取週4日以上が、男子対照群11.8%に対して介入群31.6%、女子対照群0.0%に対して介入群26.9%と高かったです。このうち6ヶ月以上継続している者が、男子対照群6.3%に対して介入群20.0%、女子対照群0.0%に対して介入群7.7%と、いずれも有意に高値でした。尿中Na/K比 は男女とも群間差を認めませんでした2)

【結論】
 食育によって果物摂取頻度は改善しましたが、尿中Na/K比には差を認めませんでした。

【今後の課題】
 この地域では、小学6年生を対象に保健の生活習慣病予防の単元において、尿中塩分調査を実施し、健康教育を継続しています。また、尿中塩分調査を乳児前期健診の両親、1歳6ヶ月健診の両親に行い、食塩摂取量と尿中Na/K比の見える化に取り組んでいます。その成果は、子どもたちの成人後に現れてくることを信じつつ。




参考文献
1) Seko, C., Taguchi, Y., Segawa, H., et al.: Estimation of salt intake and sodium-to-potassium ratios assessed by urinary excretion among Japanese elementary school children, Clin. Exp. Hypertens., 40, 481-486 (2018)
2) 山城美琴、瀬古千佳子、小谷清子、他:小学6年生を対象にした果物摂取頻度の増加をめざした食育の評価. 栄養学雑誌, 78. 102-111 (2020)


食育授業において小学生に一人1個ずつ配布した缶バッジ
(地元産の丹波黒豆と野菜を帽子にした町のマスコットキャラクター「味夢(あじむ)くん」に果物を持たせました)

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